早く目が覚めたせいで、非常に眠い。
あくびをかみ殺しながら、フラフラと通学路をたどっていたは、前方に見覚えのある後姿を発見した。
おかしなものだ、と思う。
不良というのは、平気で遅刻したり、授業をサボったりするものだと思っていた。だが、彼らは毎朝きちんと、遅刻することなく登校している。それも、その辺の男子生徒よりもよほど時間のかかりそうなヘアスタイルや、制服の着こなしをして。
不良には不良の根性というものがあるのかもしれない。
だからといって、関わるのは勘弁したいが。
は、前方を行く月森に気づかれないよう、息を殺した。少しでも音を立てれば、その瞬間に気づかれそうな、そんな気さえしていたのだ。
だが、ある瞬間に、月森はフッと消えてしまった。通学路から外れたようだ。どこかで暇つぶしでもするのだろうか、などと考えながら、足取りを軽くする。彼がどこへ行ったかなど、関係のないことだ。
――と、海のそばの道を通っていたときのこと。
「あっ、姐さん!!」
振り返ってしまった自分が悲しい。
防波堤にいたのは、自分を姐さんと呼んだ日暮里と、何故か呆然としている東と、そして月森だった。ここにいたのか。だから消えたように見えたのか、とぼんやりと思う。
振り返った月森と、目が合う。
彼は、瞬時に立ち上がった。そしては、
「あっ、待て!!」
逃げ出した。
通学路を行く生徒たちが、全力疾走している女子高生と、それを追いかける月森を見て、サッと道を開けた。どう考えても、助けなど入るわけがない。
「おい、どこ行くんだよ、亮介!」
「亮介さーん!」
「増えた!!」
いきなり走り出した月森を、東は反射的に追いかけてしまったらしい。更に日暮里もまた追いかけてくる。
これでは、学校一のヤンキー軍団に追いかけられているようにしか思えない。
あの子、何したのかな。そんな興味本位な囁きが、そこここから聞こえた。
「つーかまえた!」
「最悪だ……」
月森の足は、異様に速かった。あっという間に追いつかれ、後ろから捕まえられた。
息切れが激しい。出来るだけ忌々しげな表情を作って、彼を睨む。
「おはよう、ちゃん」
「……」
「無視? だったら今すぐここで、あのことを」
「ちが……息切れ、声、出ない」
どう見ても、にこやかに挨拶できる状況ではないだろうに。
勝手に彼氏気分になっている月森の、自分に回っている腕をのけながら、はやっとのことで言い訳をした。
「おはよう」
「……おはよう」
満足げに笑って、月森はようやく解放してくれた。
息を整えるために、大きく深呼吸をする。
「月森……今日の帰り、買い物に付き合ってくんない?」
「いきなりだな。別にいいけど、何、デート?」
「防犯ベルを、買ったほうがいいと思ったから」
にっこりと笑った月森が、数秒の沈黙の後、その笑顔のまま、もしかして、と言った。
「それ、俺に使う気?」
「そうですけど」
「……ずいぶんなご挨拶ですこと」
このくらいの嫌味は許してほしいものだ。生徒の注目を浴びて、妙なうわさを立てられることは、間違いないのだから。
ようやく追いついてきた東と日暮里が、亮介を睨みつけているを見て、首を傾げた。もしも自分が東と友達だったなら、彼に頼むのに。この男をどうにかしてくれ、と。
「おはようございます! 姐さん!」
「おはよう、日暮里くん」
見事なお辞儀をした日暮里に笑いかける。
いつの間にかすっかり従順になってしまった日暮里と、彼にだけはにこやかに対応する。そんな光景は、残り二人の首を傾げさせるには十分だったようだ。
「日暮里、もしかして姐さんって、ちゃんのことかよ」
「そうっすよ?」
「そうっすよ? じゃねえよ! てめ、いつの間に! 俺の彼女に手ぇ出そうなんざ、100万年早ぇよ!」
「いや、でも姐さんは嫌がってますし」
「何だと、こら」
日暮里ナイス!
は胸の中でそう叫んで、一瞬の隙をついてその場を離れた。あんな集団と一緒にいるところを見られたら、どんな陰口を叩かれるか、わかったものではない。
背中で日暮里の悲鳴を聞きながら、は走った。
彼には可哀想なことをしたが、そこは今朝のチョコレートと相殺してもらうことにして。
おそらくが逃げ出したことに気づいていただろう東が、何も言わなかったのはありがたかった。
「で、ちゃ――って、いねえ!!」
「……もう30秒も前に逃げたぞ」
「止めろよ!」
「どう見ても嫌がってんじゃねえか。お前、いい加減に遊びで女の子と付き合うの、やめろよな」
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