結局、活動停止中は、そっとしておくことにした。
月森の、三日程度で済んで良かった、この期間が終わればまた練習できるようになる、という言葉はもっともだったし、結局何と言葉をかけても、状況は変わらないのだから。
この期間が明けたら、また前のように応援しよう。そう決めて、三日間はひたすら耐えた。
そうして、ようやく今日から練習が再開できる。そう思って学校に来てみれば――
「はあ!?」
水沢からもたらされた現実に、は思わず声を荒げた。
「だから、悠太はもう団体をやるつもりはないらしいんだ」
「……」
理由には何となく察しがついた。
水沢を見上げると、彼は目を伏せたまま、息を吐いた。長いまつげが震えている。
「……拓は、どうしたいの?」
「決まってるだろ……。とも約束したし」
「ありがとう。だったらまだ、何とかできるよね」
例え悠太が諦めようと、水沢には諦めてほしくなかった。他のメンバーは何を考えているのだろうか。今までずっと見てきた夢を、それほど簡単に諦められるはずがない、と思いたい。
「ところで……東がまた新体操始めるって」
「また? ったく、思わせぶりな人だなあ」
「でも東、鷲津に勝つまでやめないって。今度こそ、続くと思う」
「そっか。まあ拓がそう言うなら、良いんだけどね。東くんも、意外と良いところあるし」
机に突っ伏して眠っている東を見れば、その前に座っている月森と目が合った。
恐らく偶然だろう。目が合った瞬間、月森は一瞬だけきょとんとした後、いつものようにニコリと笑って、手を振ってきた。
「で、拓」
「いや、月森が手ぇ振ってるけど……」
「ああ、良いの、無視」
「あ、そう……」
サラリと受け流して、水沢に視線を戻す。
「今日も、練習見に行くね」
「もう交流戦も終わったし、土屋のことは気にしなくて良いからな」
「ああ、うん。わかってるよ。ただ見に行きたいだけだから。それに、何か予定入れないと、あいつがうるさいんだよね」
月森のほうを見ずに言った台詞だったが、水沢は誰のことだか理解したらしい。苦笑して、だろうな、とだけ言った。
「月森と日暮里くんと行動するのって楽しいんだけどさあ。こう、あいつらって基本的に目立つし、何か気に入らなかったらすぐ怒るし」
「んー……だろう、な」
「びっくりされるんだよね、いろんな人に。何で不良と遊んでんの!? って。先生たちもいい顔しないし」
机の上で、両手を握り合わせる。
もちろん、他人が何と言おうと、彼らとの付き合いをなくすつもりはないのだが、人の目が気になるのは確かだ。
「サツキにもね、言われたんだよねえ……。学校中で噂になってるって」
「そっか、サツキが……」
「私だけなら良いけど、サツキまで変な目で見られたらさ……やっぱ」
「あんまり気にするなよ。サツキだってもう子供じゃないんだし、いつかわかってくれると思うし。はそろそろ、もっと楽しんでいいと思うんだよ、高校生活」
全ての事情を知っているのは、水沢だけだ。
両親でさえ聞いてくれなかった話を、水沢だけは最後まで聞いてくれた。だから、今でも彼を信頼している。幼馴染だからという以上に、自分は水沢に依存しているのだとは思う。
「それに、サツキとって、顔はそれなりに似てるけど、雰囲気とかは全然違うし、誰も弟だなんて気づかないよ」
「だよね。最近あの子、また髪の色が薄くなってさあ」
「こないだまで茶色だったのに、今は金髪っぽくなってるよな」
「そうそう。何か月森っぽくて、嫌なんだけど……」
「それ、どういう意味?」
水沢と笑いあっていると、唐突に背後から腕が伸びてきた。顔を見つめあったまま、二人は動きを止める。
「ねえちゃーん。どういう意味? 何が俺っぽくて嫌だって?」
「うっわあ……」
「月森、別には月森のことを嫌いだって言ったわけじゃなくて」
「うん、それは知ってる。は俺のこと好きだもんねー?」
後ろから机に手を突けば、席についているに覆いかぶさるようになるのは当然のことだ。頬に当たる月森の髪の毛のせいで、くすぐったい。
あまりにも驚きすぎて、心臓が強く脈打っている。さっきまで窓際の席にいたはずなのに、いつの間に移動したのだ。
「で、サツキって誰? 可愛い?」
「いや、サツキっていうのは」
女のような名前だから、いつも妹だと間違われる。この名前は、サツキのコンプレックスでもあるのだ。月森もまた、名前だけを聞いて、女だと勘違いしたのだろう。
そう思うと、何となく馬鹿らしくなった。
「私の弟」
「弟? 弟とかいたんだ。へえ……俺はてっきり末っ子かと」
「それは私がわがままだとか言いたいのかな、月森くん」
「正解」
机の上においてあったノートをとっさに手にし、そのままそれで月森の顔面をはたく。
流石に距離を置いた月森は、隣の赤羽の椅子を引っ張ってきて、それに座った。
「冗談だって。うん、はお姉さんっぽい。うん」
「何のお世辞よ」
「だって日暮里とか、ねえさんっつってんじゃん」
二人のやり取りを、ぽかんとして聞いていた水沢が、唐突に笑い出した。
月森に突きつけようとしていた指が、その笑い声のせいで行き場をなくし、宙をさまよう。
「拓?」
「おいおい、いきなり笑い出すってお前……悪いもんでも食ったか?」
「いや、ごめん。つい……」
軽く手を合わせて謝った後、水沢は言った。
「ずいぶん仲良くなったなと思って」
水沢の言葉を聞いた二人の反応が、正反対だったのは、言うまでもない。
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