江崎に渡されたのは、柏木が集めた資料と、一冊のノート。
 資料の量は、ダンボール一箱分。手書きでまとめられたもの、一見関係ないようにも見える本、そしてビデオテープ。
 到底一人で集められる量ではない。きっと寝る間も惜しんで集めてくれたのだ。
 テレビに映った柏木の笑顔は、いつもと同じものだった。だが、そのいつもと同じ笑顔の大切さに気づいていなかったのだ、誰も。
 いや、きっとだけは気づいていたのだろう。だから、彼女はあれほど追い詰められた。努力に気づいてもらえず、それでも悔しさを押し殺して、何よりも生徒たちのことを一番に考えていた柏木の、その思い。それを、自分に重ねてしまったのかもしれない。

「水沢、そっちのノートは?」
「これ……のだよ」

 彼女が幼い頃から好きだったキャラクターもののノートだ。一目見て、彼女のものだとわかった。


今年は拓と同じクラスになったので嬉しい。
でも東くんたちと同じクラスになった。隣にいる木山くんが怖いけど、関わらなければ害はなさそう。
しかし何故か月森くんに付き合ってと言われた。絶対嫌。死んでも嫌。超死亡フラグ。
拓の友達の悠太くんと金子くんとも少し仲良くなった。
土屋くんが可愛かった。

相変わらず月森がウザイ。
日暮里くんと仲良くなったけど、ねえさんと呼ぶのはやめてほしい。
東くんはよくわからないけど、とりあえず拓たちに迷惑をかけるのだけはやめてほしいな。

火野くんと初めて喋った。怖かった。
悠太くんが可哀相だった。もはやあの3人は同じ人間じゃない。階段から落ちればいいのに。

ちょっと東くんを見直した。

月森と仲直りみたいな感じになった。
好きと言われたのは嬉しい気がするけど、やっぱ怖いので嫌だ。
でも悪い人ではなさそうなので、5mくらい距離を開けて友達になりたい。

……

月森のことがす
何言ってんだ私わあああああ
(以下解読不能)

駄目だった……
すき

……

お父さんとけんかした。
日暮里くんちに泊まった。

日暮里くんのお手伝いをした。

ふれあい祭り。
マネージャーをすることになった。
何が出来るかわからないけど、がんばる。
役に立てるといいなあ。

……

赤羽くんにいじめられた。
なんで私がいじめられてんのかわからない。
でも亮介が守るって言ってくれたのが嬉しかった。

木山くんは人殺しだという噂。ありえない。
木山くんはいつも私を助けてくれたので、何か力になりたい。

木山くんに迷惑と言われた。泣いた。やっぱり何も出来なかった。
土屋くんが倒れた。また泣いた。どうして私は泣くしか出来ないんだろう。
航が赤羽に殴られた。航はピンピンしていた。だから泣かなかった。
土屋くんが私を優しいと言ってくれた。私は何も出来なかったのに。土屋くんのほうが優しい。

土屋くんがマネージャーになった。
正直、それはとても嬉しいけど、私がいらなくなりそうで怖い。
がんばる。土屋くんと一緒にがんばる。

……

合宿。拓がおかしい。
私はもちろん拓の味方をする。

どっちも選べない。
拓も亮介も大事。
どうすればいいのかわからない。拓が悩んでるのに、何もしてやれない。悔しい。

仲直りできた!!!!
また拓が悩んでいることがあったら、今度こそ助けたい。

……

交差技に失敗した。
とても難しいらしい。
金子くんが怪我をしたけど、大したことがなくて良かった。

悠太くんがおかしい。
何に悩んでいるのかな。聞いたら話してくれるかな。
ウザイって思われたら嫌だな。

悠太くんは跳べなくなっていたらしい。
気づいてあげられなかったのが悲しい。
でも、新体操をしたことがない私に気づけるわけない。
私も男の子だったら良かったのに。

……

火野くんの様子が気になる。
関係ないって言われた。まあ仕方ない。

火野くんもお父さんと上手くいってなかったみたい。
それなら私にも何かできるかもしれない……?

サツキと仲直りできたよ!!!
嬉しい!幸せ!!
皆ありがとう!!読んでないけど。
これからは、私のほうが皆を守ってあげたい。
何ができるかな。
部室の掃除かな。部費の計算かな。部費を増やすためにアルバイトとか?

関東大会の出場も決まったよ!!!
見てることしか出来なかったけど、嬉しかった。
これも幸せ。皆がんばってたから、お疲れ様。

……

ダンス部の人に断られた。
亮介たちはもう怖くないけど、皆にとっては怖いんだろう。
皆が早く気づけばいいのに。

帰り道で、亮介と手を繋いだ。
今度は私が守るよって言ったけど、何をすればいいんだろう。
とりあえず、資料集めを頑張ろう。
いっぱい役に立ちたい。
柏木先生も同じことを言っていた。先生とは素人仲間だから、一緒にがんばりたい。

今度は私が守るって言ったのに、亮介と変な感じになった。
守ってほしいって思うのはわがままなのかな。
結局私は何もできなくて、迷惑しかかけられないのかな。
さいあく

……

 日記はここで終わっていた。
 は、不安も悩みも、全てこの中に押し込めていたのだろう。そして、笑っていた。
 責めてばかりだ。何も出来ない、と。
 だが、彼女はこの日記の中でも常に部員のことを気にかけている。そのたびに何も出来ない自分を責めているが、あの時のことを思い出すと、皆が同じことを言うに違いない。
 彼女に救われていた、と。
 いつでも味方でいてくれて、一緒に笑って、泣いて、怒ってくれて。
 彼女の笑顔に、皆が救われていた。

「水沢、それちょっと貸して」
「ああ、うん」
「俺、んとこ行って、連れて来るわ。絶対、やめさせねえ」

 亮介が、ノートを奪い取って、立ち上がる。

「頼んだ、亮介」
「俺たちは、一人欠けてもやっていけないんだ」

 航と悠太に背中を押されて、亮介は部室を出て行った。
 二人とも、いなくてはならない存在なのだ。
 どうして、そんな当たり前の言葉をかけてやることが出来なかったのか、今となってはそれを悔やむことしか出来なかった。




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